Ⅲ.読解
次の文章を読んで後の問いに答えなさい。
人生はしばしば偶然に左右されるが、偶然の結果がすべて吉と出るのも珍しい。ベルリン在住の演出家、渡辺和子さんは、そういう幸運に恵まれた。
ウィーンで演劇を学んでいた夫と結婚したのが、1960年代の半ば。良家のお嬢様という言葉が、まだ日常に生きていたころだった。女子大を卒業するまで、口をきいたことのある男性は父と弟だけだったそうだ。
女も家にばかりいてはいけない、と夫がいう。言葉もわからぬ外国で行くところがない。昔のおけいこごとを思い出し、帽子をつくる学校に通った。感覚がいいと先生にほめられる。勧める人があり、今度はウィーン工芸大学舞台衣裳科の学生になった。
そこでも認められ、ザルツブルク音楽祭で実習の機会が与えられる。このとき、ドイツの著名な女性舞台衣装家の目にとまった。私の家に住み、食べさせてもあげるから、ベルリンに来て本格的に修行しなさい、と熱心に誘われた。
衣裳で独り立ちしたあと、今度は舞台美術も手がける。やはり イ からだ。ある劇場から言ってきた。ギャラが高くて衣裳だけでは払えない。舞台美術もやってもらえるならお願いしたい、と。
渡辺さんの舞台空間は簡素が特徴だ。花嫁修業でやらされたお茶やお花の影響が舞台づくりに出る、と本人はいう。それが好評のもとなのだが、装置がシンプルすぎて、ドイツ人の役者にはどう動いていいかわからない。演出家の隣に座って説明するうち、自分でやった方が早いと ロ も兼ねることになった。
言葉もわからず、渡欧し、演劇には無縁だったのに、昨年はドイツの演出家ベスト10に選ばれた。国籍や経歴を問わず、いいものはいいと認めるドイツの開かれた気風が、自分でも気づかなかった才能を開花させた。
渡辺さんが構成、演出する舞台が、東京の新国立劇場で上演されている。
質問
(1)そういう幸運とはどのような幸運か。
a.ウィーンで演劇を学ぶことができる幸運
b.人生が偶然に左右される幸運
c.ベルリンで修行ができる幸運
d.偶然の結果がすべて良いものとなる幸運
(2)( イ )にあてはまる適切な語を選びなさい。
a.偶然
b.実習
c.学校
d.夫
(3)( ロ )にあてはまる適切な語を選びなさい。
a.役者
b.演出
c.衣裳
d.舞台美術